アーカイブ | 3月 2017

柳川さげもんと吉田博展

香川うどんお勧めの、久留米市立美術館(ブリジストン美術館)での吉田博展。3月20日までだったのですが、17日に見てきました。「今日こそ行こう」と思いながら、なぜか仕切り直しをすること数回。かろうじて閉幕までに間に合いました。大牟田線に乗って久留米で降りず、通りすぎて柳川まで行って、うなぎを食べて「さげもん」(つるし雛)を見て帰った日もありました。出かける用意をしていたら、急な用事が入り、別の場所に行った日も・・。

久留米市出身の画家の里帰り展ということもあって、すごい人気。特に、朝日 と夕日を受けた帆掛け舟の連作、日本アルプス剱山の朝などの版画の前は、黒山の人だかりでした。吉田博は明治・大正・昭和初期に活躍した画家です。昭和25年に亡くなりましたが、戦前は、海外で良く知られた画家だったらしく、嘘かまことか、終戦直後、日本に降り立ったマッカーサーが「吉田博はどこだ?」と訊ねたとか。戦後数年間、吉田博邸は占領軍の軍人や夫人たちの文化サロンのような趣を呈したそうです。

博は23歳の時、片道切符で渡米し、デトロイト美術館でデビューして成功を収めています。水彩の日本的な風景画は驚くほどよく売れたそうです。以来、度々、数年がかりの海外旅行をしています。アメリカやヨーロッパ、エジプトなど、世界中の有名な観光地の絵を描いています。万国共通のセンスの良さ、分かりやすさのある絵なので、行く先々で売れたようです。大正・昭和ひとけたの時代の船旅ですから、時間もお金もかかる命がけの旅だったと思います。吉田博は旅行家・登山家としても優秀な人でした。明るい透明感のある水彩画や、何十回も刷って仕上げるという木版画などは、実に現代的で洗練された画風です。画家としての技術的なレベルは大変に高いのですが、どちらかというと思想性のない(めんどくさくない)、軽い絵葉書風。また、当時の外国人受けを狙った芸者・フジヤマ的モチーフの作品が多いこともあって、どこかしら商業主義的な感じもする絵画です。当時の画壇の中心だった帝展の大御所、黒田清輝を批判していたとのことですが、吉田博自身も帝展の審査員にまで「出世」しています。展示作品に添えられた学芸員の解説文を読む限り、今回の展覧会の主催者側は、ぞっこん博に惚れこんでいる感じ。また、展覧会の来場者も、ほとんど「いいね!」「素晴らしいね!」と言い合っていました。私も、軽くて洗練されたものが好きなので、この人の作品は好きですが、同行した連れ合いは(思想性を重んじるタイプの人)、同じ久留米出身の画家でも、坂本繁二郎や高島野十郎の方を評価する様子でした。ま、好みですね。

西鉄柳川駅のさげもん。柳川の女性たちの手仕事だそうです。土産物店では立派なセットが、7万~15万円で販売されていました。普通の雛飾りより、私はこれが好きなんですが、とても手が出ない高値の花。

 

 

歩きスマホはやめましょう

2月は記事を更新しないまま、早くも弥生3月になりました。早春。まだ空気は冷たいのだけれど、陽射しは明るく、いつもの散歩道には春の気配が漂っています。2月末を以て、西日本新聞の半年間の連載が終了し、ホッとしているところです。週1回の連載は、なかなか大変でした。2月はわが家に「事件」がいろいろありましたが、無事に3月を迎えることができてありがたいことです。

いろいろあったことのひとつは、夜の公園で歩きスマホをしていて、車止めにぶつかり転倒したこと。膝と胸をしたたか打って、2週間くらいあばら骨が痛くて寝るのも不自由でした。夫婦で、夕食後、公園まで散歩に出かけることが多いのですが、公園でポケモンGOのボールを取りながら歩いている最中の椿事でした。そもそも、暗闇ではまっすぐ歩くことが難しいニワトリのような私が、スマホを見ながら夜道を歩くのは大変危険な行動なのです。私自身はスマホは持っておらず、夫のスマホを借りて(奪い取って?)のポケモンGO。昨年から、この子どもっぽいゲームにはまっておりました。ハイ、この歳で。

「わーい、ハイパーボールが取れた!」とスマホ画面に夢中になりながら歩いていると、突然、脚が何かにぶつかり、上半身が泳いでしまいました。障害物はコンクリートでがっちり太く、高さも相当あって、先に進むことも戻ることもできません。身体のバランスが崩れて、バタッと倒れる以外、選択肢はありませんでした。先を歩いていた夫が異様な音に振り返ると、私が「五体投地をしていた」そうです。

「五体投地」とは、チベット仏教の拝礼作法のひとつです。全身を地に投げ伏して仏を崇めるという、最も強い信仰の表現。本当に、全身で、バタッと前に倒れるのは相当激しい衝撃と痛みを感じます。そういう姿勢を取り続けながら、チベット仏教の信者はボロボロになって巡礼の旅を続けていたのだとか。最近は、五体投地用のマット持参で拝礼するみたいです。

巡礼でもないのに、私は歩きながら、時々、何かにつまづいてバタッと全身で転ぶので、夫が「五体投地」というのです。2月は忙しい中のハプニング。肋骨の痛みをサポーターで抑えつつ駆けずり回りました。アメリカのトランプ大統領暴走政策や、金正男氏暗殺事件など世界のビッグニュースに比べれば「ふふふ」のレベルの事件ですが、わが家の大きな反省材料になりました。もう、歩きながらスマホや携帯を見なくなりました。地下鉄の駅や歩道の脇にも書いてありますよね。「歩きスマホはやめましょう!」。賢明な読者の皆さまには不要な注意ですよね?